『スプリント(Sprint)』が『T-Mobile』になった時(上)
スプリント買収
2012年10月15日、一つのドラマが始まった。
”ソフトバンク、米スプリントを買収”
経済ニュースとして、大きく報道された。
同日ソフトバンクの孫正義社長とスプリント社長ダン・ヘッセが記者会見を開いた。
内容は米国通信大手3位のスプリントをソフトバンク(現ソフトバンクグループ)が201億ドル(1兆5000億円)で買収したというものである。
さっそく話が脱線するが、「あれ?なんか為替換算がおかしくね?」
調べてみたら、2012年10月の米ドル対円の仲値は1ドル=78円台、同時代を生きていたはずだが、こんなに円高な時代だったっけ?と改めて驚愕する。
(当時76円台を底に円高が推移。この後日本の政権が民主党政権から現政権に替わって、円安方向へ)
私は2012年初頭より、株主優待の恩恵(ソフトバンク携帯電話の月額基本料980円が無料になる)を受けようと、ソフトバンク(現SBG、以下SB表記)株主になっていた。
そのためSBの情報ウォッチャーとして敏感になっていたのであるが、
「日本国内で通信大手第3位に定着してきたSBが、いよいよ米国進出か!?」
と期待30%・不安70%でスプリント買収の発表を目にしたことを覚えている。
スプリント買収のねらい
買収直後はあまりはっきりとした発言が出ていなかったが、孫正義社長の後述では、「スプリントとT-Mobile USの買収はセット」であったとのこと。
「この2つを合併させて、独占的に通信業界を支配する「AT&T」「ベライゾン」をしのぐ第3極企業をつくる」ことがこの買収のねらいであり、必須の戦略だった。
しかし各種報道にあったとおり、このねらいがひとまず頓挫することになる。
スプリント・T-Mobileの合併交渉を進める中、2014年にはFCC(連邦通信委員会)委員長からは合併買収に難色を示される。
その後、経営不振によりスプリントは米国通信で4位に転落、そしてついにはT-Mobileとの合併交渉の打ち切りに至ってしまうのである。
株価急落と4つの反転戦略
2016年初頭、世界的に大きく株価下落が起こっていた。
ちょうどその頃、スプリントは売上減少・赤字拡大・資金難と経営危機が報道されていたため、下落に拍車がかかっていた。
当時の報道やコラムでは、スプリントについて以下のような「経営破綻」「資金難」「破産」といった記事が多く目についていた。記事の主流は「スプリントは経営破綻の可能性が高い」という判断。
(↓2016年4月当時の投資家サイト記事↓)
【表題】スプリントの破産はとても現実的な可能性が高い
株価もみるみる下落していき、「破綻するのでは?」という計り知れない不安の最中、
孫社長は2016年2月、2016年3月期第3四半期決算の説明会で「4つの反転戦略」を打ち出した。
スプリント4つの反転戦略
1.契約数純増の改善・・・ポストペイドの増加、解約率の改善
2.経費の削減・・・固定費の削減見直しを推進
3.多様な調達手段・・・社債の返済目処と立てた
4.ネットワークの改善・・・必要最低限の設備投資で大幅な電波改善
同説明会で最も時間をとって、このスプリント反転戦略を熱く語った孫社長。
理論的に確実に「スプリントを立て直してみせる」との気迫があった。そして最後にこう発言した。
「スプリントを、私の誇りにかけて(これまで国内通信事業を立て直したのと同じく)反転してみせる!」
「今はその自信を深めた」
このときは私にとっても、
「市場の評価を信じるのか」
「孫さんの発言を信じるのか」
自身の投資判断が試されることになり、
ハラハラとした苦悩を過ごしていた。
逆境のなかの追加投資
2016年2月当時、SB関係各社の一株あたりの株価は
・ソフトバンク:4000円台前半(今の株価に換算すると2000円台前半)
・スプリント :2ドル台(今のT-mobile株価に換算すると20~30ドル位)
・アリババ :50ドル前半
各社とも相当に株価が下落しており、私の保有株式時価も、半年前から半減になるような状況。
しかし「ここは仕込み時」との判断から、投資先としてSB・スプリント・アリババのどこに投資するべきか悩んだ。
5年後、10年後の株価(企業価値)を自分なりに想像したが、決算説明会での
「孫さんのスプリント反転にかける自信」が印象的だった。
その結果、残された余裕資金の中から、スプリントに70%・SBに30%を追加投資。
これらの追加投資を含めると、スプリントへの全投資額は、
「新車のカローラ(トヨタ)」
の価額くらいになってしまった(わかりにくいか)。
「廃車」覚悟で「カローラ」をスプリントに預けたことは、はたして吉と出るか、凶と出るか。(続く)